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杜の舟型録帳/木工芸・童話・小説

杜鵑啼く空に
早朝に庭に立てば、一羽の杜鵑が
甲高く啼き
狂い、薄曇りの空を翔けてゆく。

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杜鵑の声を「東京特許許可局」などと聞きなしてみても
それはどうしても耳に馴染まず、只その声に哀れを思う。
そんな風に哀れを感じるのは子供のころに
父から聞いた話しに起因するのかもしれない。
そんな話しを聞いたのは半世紀以上前になるのだが
そんな小さな逸話が自己の価値観を形成する
基になることも有るのだなと
杜鵑の飛跡を追いながら思うのである。

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昔、日向の山奥に二人の兄弟が仲良く暮らしていた。
普段は山菜や川魚のエノハ獲りをして里へ売りに行くのだが
その日はどうしても大きなエノハが獲れないので
つい、普段は行かない深い渓谷まで踏み込んでしまった。
その時、兄は滝の飛沫に濡れた苔に足を取られ
崖から落ちて動けなくなってしまった。
その日から弟は怪我をした兄の分まで稼ぐために
遅くまで働かなければならなくなった。
しかし、まだ幼い弟には商売になるようなエノハは
なかなか獲れず自分の食べる分は小さなものばかり。
それでも兄が早く元気になりさえすればと
毎日、一番大きなエノハと炊きたての飯を兄に食べさせていた。
あとはその残りと山菜の僅かの稼ぎで米や薬を買ってきた。
まだ寝たままの兄は、このところ弟が一緒に飯を
食べようとしないのが不審に思えて尋ねた。
「どうしておまえは一緒に飯を食わないんだ。」
「兄さん、心配には及びません。
私は明日の準備もありますから後で頂きます。」
兄は動けない自分の目を盗んで、もっと大きなエノハを
食っているに違いないと疑いはじめた。
いや待てよ、あんな大物が売れさえすればそれより
もっと旨い物を買って、道々食って帰るに違いない。
そう疑いはじめるといつも優しく看病してくれる
弟の腹の底が見えてきて憎く恨めしく思えてくるのでした。
どうしても、どうしても我慢が出来なくなった兄は
看病と仕事で疲れてぐっすり眠り込んでいる弟の
腹を切り裂き中を覗きこみました。
もう息をしなくなった弟のお腹の中には
先程自分が食べ残したエノハの骨と
僅かの烏麦の穂があるばかり。
兄はこんな優しい弟を疑い
あやめてしまったことを悔いて一晩中泣きました。
泣いて泣いて泣くうちに、今まで動けなかった身体は
宙に羽ばたきいつの間にか
一羽のホトトギスになっていました。
それからホトトギスは千八声啼き続け
口から血を吐くまで
食べ物にありつけないのだと言われています。
・・・・・・・・・何とも悲しい話です。

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