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杜の舟型録帳/木工芸・童話・小説

夢病譚・6 眼鏡の向こうに
夢病譚・6
眼鏡の向こうに

もう使われなくなって随分になる作業机に手を触れると
微かなマシン油と埃の匂いがして胸が熱くなり
記憶の糸に誘われるように抽斗の引き手に触れてみる。
あの頃のこの
真鍮製の引き手は、触れていたところだけは
何時も金色に眩しく光っていたものだけれど
今では錆色の空気に同化したように光を失ってしまった。
その使い込まれていた抽斗はそっと手を掛けただけで
奥から推されて滑るように引き出され
窓辺から差し込む午後の陽射しにキラと反射する。
「眼鏡・・・。」
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そっと取り出して作業机に置けば遠い記憶が甦り
この眼鏡を通して何時も同じものを見てきたような
「旅先の風景も、風も光も花も鳥達も、そうして子供達の笑顔
泣いて笑って
ずっと一緒に暮らしてきた街の灯り。
全部二人で見てきたものばかり。」
『今も覚えているよ。』
静かに眼鏡が笑った様に応える。
『でも、何時も傍にあって、君だけが見ていなかったものもあるよ。』
「・・・なあに?」
『君の笑顔。今も見ている、忘れないよ。』
「ふふふ、ずっとあなたの眼鏡に映っていたわ
そして眼鏡の向こうに、貴方の知らない優しい笑顔も。」
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古い眼鏡はそれまでに見てきた風景や時を
記憶しているのだと云うから
時計屋の娘、お絹さんのレジン作品のための
眼鏡の木枠を手掛けながら
ふわりふわりと妄想回廊を巡ってみた。

☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽YUMEBYOUTAN☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽
肋骨夢病譚▶夢の続き

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