杜の舟型録帳/木工芸・童話・小説

葡萄の色
パラノイアエッセイ 第十三話
葡萄の色
『モリノフ君、
葡萄が色着いて来たぢゃあないか。』
唐突さ加減と獣ぢみた野太い声で、私のことを
モリノフ君などと呼ぶのは
彼以外にはなく、少し驚きはするが
「ああ。」と直ぐに状況を引き受けてしまうのが常である。
それが梶井基次郎であることは判っていたから
振り返り見る事もせずにその声に応える。
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「ええ、もう七月も終わりますからねえ
お盆には何時も
祭壇へ色着いたのをお供えしますから。
この度はまた、お久し振りですが、今までどちらへ。」
『ふふん、君が思い出さんから冥府を漂っていたのだ
何時も謂うが俺は精神を乗せる舟を持たんから、一時的に
君の舟に相乗りさせて貰って居るんぢゃないか。
葡萄が色着き始めるころには冥府の扉が緩くなるから
そいつに惹かれて、ひょいと立ち寄った迄だ。』
何時もの事ながら基次郎は相手の都合も考えず
現れるようにも見えるが、彼曰く「私が思い出しさえすれば」
確かに現れるのである。
『忘れちゃあ居ないだろうな、もうすぐ
従妹の礼子嬢
何十回目かのバースデイと謂う奴だ。』
「覚えては居ますが・・・。」
『何だ、その「居ますが・・・。」って謂うのは。』
「もう七月も終わってしまいますねえ・・・」
『良いんだ、覚えてさえ居れば。人は認識の中にのみ存在する
例え実体が在ったとしても誰からも認識されなければ
存在しないのと同じ事で、この満ち満ちたる空気でさえも
認識なくば「無い」のと同じ事なんだ、
ぢゃあ安心したから還るぜ。』
今回は基次郎とは久し振りの再開であったのに
背中越しの会話だけで姿も見ないままであった。
「基次郎さん、どちらへ。」と振り返った時には姿もなく
『冥府だよ。』の声だけが耳に残る。
パラノイアエッセイの読み方
パラノイアparanoia
体系立った妄想を抱く精神病。妄想の主体は
血統・発明・宗教・訴え・恋愛・嫉妬・心気・迫害などで
四十歳以上の男性に多いとされる。分裂病のような
人格の崩れはない。偏執病。妄想症。
いったい何の事だか分からないが、当てはまっている
ところが無いこともない・・・・・・。
そんな訳でポコンと現れた、言葉や映像の断片から
妄想が膨らみ、四次元浮游の基次郎などが現実世界に
絡んで来ると言う、不可思議なエッセイであるから
元来パラノイアエッセイの読み方なって謂うのも無く
理解などという範疇を超えての御愛毒を。
:::::::::PranoiaEssai:::::::::
檸檬と悪魔基次郎の予感十四話へ続く
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0000morinof00000000000 福岡県筑豊の小高い丘の上に棲息工房「杜の舟」を生業としながら小説・児童文学などを執筆

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