杜の舟型録帳/木工芸・童話・小説

絹子・1
閑脳私小説
五章・絹の約束

『先生のお仕事ぶりや蘊蓄には、いつもながら引き込まれてしまいます。
ああ、そのお仕事ぶりへの情熱の何十分の一でも、あたしに
向けてくだされば、この世の幸せでございますのに
どうぞ絹とのお約束、お忘れになりませぬように・・・。』

そんな
婉曲なる便りを貰って何度も読み返して見るが
肝心な約束の内容が書かれていない。
かと言って今更「何の約束でしたか・・・」など尋ねるのも馬鹿である。
確かに赤煉瓦館の隅で、約束を交わしたことは覚えているのだが
何の約束だったのか、とんと忘れてしまっているのである。
細面で鼻筋の通った絹子は時計技師の娘であるが
その稼業に似合わずノンビリとしていて、語り口なども
京ことばを聞くように不思議な抑揚と間を持っていて
時計仕掛けに例えるなら一日10分ばかり遅れる
ゼンマイ時計のような緩いゆるい性分のようである。
たぶん約束をした日にも、その言葉の韻に気を取られて
肝の部分を聞き逃していたようで、記憶に沁み込んでいない
だから幾度思いを巡らしても、見当たらないのである。
『何だかお腹が寂しがっているから美味いものでもご一緒ましょう。』
と言うのでもなし『喰うに困っているから金を貸してくれ』との
無心でもなかったから、多分これのことであろう。
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婉曲なる仕事の催促メールに閑脳妄想しながら
慌ててブローチ木枠を製作している杜の舟であった・・・

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0000morinof00000000000 福岡県筑豊の小高い丘の上に棲息工房「杜の舟」を生業としながら小説・児童文学などを執筆

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