杜の舟型録帳/木工芸・童話・小説

南国奇譚1・湯場童
南国奇譚・1
湯場童【ゆばわらし】
三股町の工芸展に参加するのは、これで5回目で
今年は交代の運転手もなく一人での参加である。
最初の年には都城駅前のホテルに逗留したが
その建物も社員もタイムスリップしたような年代物で
朝食も賄う古き良き時代を生きてきたであろう
老齢のバーテンダーなどは哀愁さえ醸していた。
同行の作家氏はこれを大いに嫌って、次の年からは
若干宿泊料は張ったが、真新しい郊外のBホテルに
宿泊するようになった。
今回は駅前のGホテルが増築したのをきっかけに
大浴場を完備したというので、それに魅かれて宿を決めた。
会場へは前日搬入のつもりで早くに出たのだけれど
一人旅となればルーズなものでサービスエリアごとに立ち寄っては
休息をとりダラダラ暢気に走ったものだから都城についたのが
午後の5時を回ってしまいそのまま宿に直行して
疲れを癒すべく大浴場へ。
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浴場には10ばかりの洗い場があり
だだっ広くはないが狭くもない、何とて特徴を持たぬ風呂である。
下足箱には自分のスリッパ以外に見当たらず
貸し切りかと思ったのだけれど洗い場から湯をかぶる音が聞こえ
衝立越しに気回しすると気配がぴたりと消える。
「妙なものだ。」と首をかしげながら湯船に浸かっていると
しゃかしゃかとシャワーの音がしはじめる。
「やっぱり居るのか。」と体を捩じって音を拾おうとすると
湯気のごとく、むわわ~んと気配が消える。
その音のしたところとは離れた洗い場で、気を惹かれぬように
湯をじゃかじゃか音高々に体を洗ながらも、背中の産毛が
そわそわとそちに靡いていくような気がしてならない。
「ここは地下一階の浴場だから逃げ場もないぞ。」
そう思い始めるとオチオチしてはいられないと立ち上がれば
低い小壁越しに洗い場全体が見渡せた。
・・・・・・誰もいない。
これはきっと座敷童ならぬ湯場童ではなかろうか。
♨♨♨♨♨♨♨♨♨♨♨♨♨NANGOKUKITAN♨♨♨♨♨♨♨♨♨♨♨♨♨
湯場童◀南国奇譚2・バーテンダーの影

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0000morinof00000000000 福岡県筑豊の小高い丘の上に棲息工房「杜の舟」を生業としながら小説・児童文学などを執筆

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