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杜の舟型録帳/木工芸・童話・小説

ミース(北杜の神話)から・スィニエーク空港

Ⅰスィニエーク空港 ミース(北杜の神話)       
   これは一枚の古い写真から紡ぎだされる、パラノイア・ノンフィクション作品で
      本業の木工の傍らで校正を加えながら、書き綴ってゆく私小説
          杜の舟外伝の一つのものがたりです。

        
         スィニエーク空港 


 思うように暖房も効かない軍用機を思わせる旧ソ連製の機体が
東スラブの冷たい灰色の空を震えながら幾時間も飛び続けている。
寒さ凌ぎに呷ったウオッカは、
強烈なまでに胃袋だけをひりりと焼いた。

 やっと高度を下げ始めても、変わらず私は白い息を吐きながら
ずっと寒さを堪えている。 機体が雪を噛むように軋みながら、ようやく
白いスィ二エーク空港の滑走路に着陸した。
 
 しかし小さな窓越しに見る外界は、とても着陸したとは思えない風景であった。
凍てる風が滑走路を白く泡立たせ、古い機体は波間の小舟のように
絶え間なくぎしぎしと煽られ、いまだ大地に足の付かぬ思いである。
 
 機内のアナウンスもなく扉が突然開けられ、どっと強い寒気が吹き込む。
白雲母のようにさらさらに凍った雪片に足を取られながらも
私はぶ厚い手袋で露出した頭を覆うようにして、粗末なターミナルへ駆け込んだ。
同乗だった20人ばかりの客は慌てるでもなく帽子を目深に被り
襟を高く立てながらゆっくりとした足取りで後から歩いて来る。

 それぞれに雪をはたきコートを脱ぐと、ピートの爆ぜる
ごつい鋳鉄ストーブの周りで待っていた迎えの者たちと
ターミナルを後にしていった。
 
 一人残された私の傍へ、長身で灰色の瞳をした男が歩み寄りながら
「御待ちしていました。ウチノユタカさんですね。」と声を掛けてきた。
相手の指定通りに手紙で幾度かのやり取りをしただけなのに
どうして私がそうだと分かるのか疑問に感じて尋ねると笑いながら
「簡単です、最後に残った人に声をかければ良いのですから。」と答えた。
「それに現地の者なら、外に出る時帽子も被らず、おまけに
凍路を駆けて来るものなどいませんからね。」 
 
 成程そうだと関心しながら握手の手を差し伸べると、
いきなり両の腕を掴むようにして、私の両頬に頬を重ねてきたので
思わず顔を引きながらたじろぎ慌てた。
「ああ失礼。日本の方には好まれない挨拶でしたね。」
「いや・・・・・・。ただ突然だから面喰ってしまって。」
彼も頭を掻きながら「初めまして、私がモリノフ・ウラガーンです。」と
言い、改めて握手を求めてきた。
 先日貰った手紙の内容から察するに、先祖に甚衛門という日本人が
いたからか何とも流暢な日本語である。

 私は内ポケットから一枚の古ぼけた写真を取り出した。

           モリノフ

「この写真です、モリノフ・ミネストレーリ。どことなくあなたに似ている。」
何故か初対面の彼に、一枚の写真が同族の匂いを感じさせた。
モリノフ・ウラガーンと名乗った彼も同様に感じたらしく
「ユタカこそ、瞳の色以外ミネストレーリそのままです。」と言って
改めて固く握手を求めてきた。

                                
            北杜の神話杜の舟外伝Ⅱ・神話の杜


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