杜の舟型録帳/木工芸・童話・小説

南国奇譚4・半世紀の彼方から
南国奇譚・4
半世紀の彼方から

展示会最終日の片づけを終えて
都城駅のそばにあるスーパーに夕食の買い出し。
明日は早くに立つ予定だから今夜のうちに
土産物など買っておこうと地元菓子など物色していた時に
何とはなしのひとつの和菓子に目が留まったとたん
半世紀ばかり持っていた記憶の謎が一気に解消し
亡き父への懐かしさと幸福感のようなものが胸を満たした。

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たぶん小学校の低学年の頃であったろう
クリスマスのプレゼントに、寄りによってサンタクロースは
鶯餅なぞを枕元に置いて帰るのである。
しかもそれは、まろまろの普通の形ではなく
中高く摘み上げたような妙な按配に歪になっていた。
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そいつが大よそ半世紀余り経って目の前に現れたのである
勢ぞろいして整然と収まっているシールには
弥五郎の里「花つまみ」とある。

父の郷である山之口の伝説では弥五郎は大男で
村に困ったことがあれば何時でも手助けをして
有難がられてはいたけれど
時として悪戯をして村人を困らせることもあり
そんな時には『弥五郎どんの鼻つまみ。』と囃し立てた聞いた。
弥五郎は団子っ鼻であったから、それを模して
饅頭や団子をつまみ上げた田舎菓子が生まれたのであろう。
父は終戦で抑留先のロシアから引き揚げて来たときに
一度だけ宮崎県の山之口に戻ったが帰る家も身寄りもなく
戦後復興に沸く筑豊の炭鉱で働くことになり
二度と帰ることもないままに他界してしまったが
クリスマスプレゼントの鶯餅を子供のころの記憶の懐かしさに
ついつい、つまみあげて見たくなったのであろう。
もう父が亡くなって45年になるが「弥五郎どんの鼻つまみ」に
出会ったお陰で若くお道化た父を近くに感じ
『じゃっど、やっと解いよったか、そら弥五郎の団子っ鼻じゃ。』と
半世紀の彼方から、声が聞こえたような気がした。
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湯場童南国奇譚▶5

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南国奇譚3・背後霊
南国奇譚・3
背後霊【はいごれい】
昨年の春に出来たらしいホテルの新館は
確かに清潔ではあるが、旧館ロビーとの繋がりの床面に
幾つもの不可解な起伏があり、船酔い気分になってしまう。
天井にはメンテナンスと節電効果を上げるために
LED照明が埋め込まれ、射るような光線を飛ばしてくる。
ベットサイドの手明かりも御多分に漏れずLEDで
寝返りを打つたびに舞い上がる微塵のホコリが
チンダル現象を起こし、それらが小さな人魂のように
ふわふわと舞い飛んで見えるのである。
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文庫本の文字を追うにLEDはエッジ立つコントラストが目に痛い。
昨日古書店で、こうの史代の「この世界の片隅に」を見つけて
購入していたので、軽く読み流しながら絵を追うているうちに
そのまま寝込んでしまい、眼鏡は背中に潰されてぺったんこ。
未明に目覚め、薄暗がりの鏡に映る我が姿に
背後霊が重なり見えて、一瞬ギョッとなったが
何のことはない、押し潰された眼鏡の
光軸の歪みが見せた幻影であったらしい。

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南国奇譚2・バーテンダーの影
南国奇譚・2
バーテンダーの影
展示会初日、懇親会の飲みなおしだと眠れぬ夜のために
ビールを買いに出た序でに
古本屋に立ち寄る道すがら
最初の年に泊まった駅前ホテルを思い出し
その後どうなったろうと気になり始め
「よもや潰れてはいまいが。」
好奇心は時として人の不幸に向けられることもあり
ふらりふらりと幾つかの路地を抜ければ
玄関の階段や歩道の亀の甲羅のようなヒビ割れから
雑草が伸び茂って、建物全体の色艶も失われ
灰暮れ色に曇った空に、のおお~んと悲しげに突っ立っていた。
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「彼は何処へ行ったろう。」
残り少なくなった胡麻塩髪を櫛目綺麗に
オールバックに撫であげ、蝶ネクタイにチョッキ姿の
あの老齢のバーテンダーを思い出し
半上がりの二階にあるバーを見上げると
明りのない窓辺に架かるカーテンがチラと動いて
あのバーテンダーが人待ち顔で
こちらを覗き見たような気がした。
「ああ、今夜のビールはほろ苦い・・・」

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湯場童南国奇譚3・背後霊

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南国奇譚1・湯場童
南国奇譚・1
湯場童【ゆばわらし】
三股町の工芸展に参加するのは、これで5回目で
今年は交代の運転手もなく一人での参加である。
最初の年には都城駅前のホテルに逗留したが
その建物も社員もタイムスリップしたような年代物で
朝食も賄う古き良き時代を生きてきたであろう
老齢のバーテンダーなどは哀愁さえ醸していた。
同行の作家氏はこれを大いに嫌って、次の年からは
若干宿泊料は張ったが、真新しい郊外のBホテルに
宿泊するようになった。
今回は駅前のGホテルが増築したのをきっかけに
大浴場を完備したというので、それに魅かれて宿を決めた。
会場へは前日搬入のつもりで早くに出たのだけれど
一人旅となればルーズなものでサービスエリアごとに立ち寄っては
休息をとりダラダラ暢気に走ったものだから都城についたのが
午後の5時を回ってしまいそのまま宿に直行して
疲れを癒すべく大浴場へ。
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浴場には10ばかりの洗い場があり
だだっ広くはないが狭くもない、何とて特徴を持たぬ風呂である。
下足箱には自分のスリッパ以外に見当たらず
貸し切りかと思ったのだけれど洗い場から湯をかぶる音が聞こえ
衝立越しに気回しすると気配がぴたりと消える。
「妙なものだ。」と首をかしげながら湯船に浸かっていると
しゃかしゃかとシャワーの音がしはじめる。
「やっぱり居るのか。」と体を捩じって音を拾おうとすると
湯気のごとく、むわわ~んと気配が消える。
その音のしたところとは離れた洗い場で、気を惹かれぬように
湯をじゃかじゃか音高々に体を洗ながらも、背中の産毛が
そわそわとそちに靡いていくような気がしてならない。
「ここは地下一階の浴場だから逃げ場もないぞ。」
そう思い始めるとオチオチしてはいられないと立ち上がれば
低い小壁越しに洗い場全体が見渡せた。
・・・・・・誰もいない。
これはきっと座敷童ならぬ湯場童ではなかろうか。
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湯場童◀南国奇譚2・バーテンダーの影

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夢病譚5・界境線
夢病譚・5
界境線
身動き出来ずに病に伏すという程でもないのだが
この数日、療養に専念せねばならない羽目になり
工房の隅にある事務所兼書斎続きの書庫で過ごしている。
深々と寝も遣らず座すことも適わず自由を制限された身体を
板敷きにごろりと横預けしての読本三昧しか用は無いのである。
二日も薄暗い書斎に閉じ込められていると昼夜の区別もなく
チャキチャキと煩く駆け巡る掛け時計に行動を支配され
針の指し示す時間毎に藪医から処方された薬をハーブ水で飲み
その薬のせいもあってか、とろりとろりと惰眠の中にありながら
腹が減るでもなく膨れるでもなく退屈の退屈さを味わっている。
それでも四日目になると身仕舞いには大きな不自由さもなくなり
まだまだ、刺すような暑気には耐えられそうにはないが
外気を吸いたくなれば早朝や日入りの庭に出ることはできた。
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何時までゴロゴロしていても腹も減らないし、身体慣らしに

少し足を延ばしてやろうと、
草臥れてツバの破れた麦藁を阿弥陀に被り
眩しく照り返す夏草の原に切り絵のように横たわる樹影を渡って
工房の北に茫々と広がる月の広場に足を踏み入れた。
その先は手入れも行かず刈り残された草背丈ほどに繁茂して
葉も茎もぢりぢりに陽妬けて針のように乾燥しきって行く手を阻んでいる。
確かに月の広場の奥に黒々と盛り上がる椿山は涼しげではあるが
鑢のような草藪を漕いで進む程の事かと迷い立ち止まってしまう。
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『こちらをどうぞ。』草叢から白い顔を覗かせた笹百合
道案内だと言わんばかりに、か細い声で話しかけてくる。
なに驚くこともない、この風の丘では生き物だけでなく
石ころや風だって気まぐれにしゃべり掛けてくるのだから。
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三尺ばかりに背伸びした笹百合が、こっくりとうてなを傾げた方に
目を凝らすと、今にも雑草に呑まれそうになった木道が
覗いて見える。
促されるままに木道を渡り、ぢゃかぢゃかと全身を削るように
擦り寄ってくる硝子繊維のような茂みに絡まれないように
斜に構えた脚の先から踏み分け押し分けて進んでいくと
突然地面から火でも噴き出したかように真っ赤な羽根の山鳥たちが
けたたましい鳴き声をたてながら頭上を越して跳ね飛んでいった。
その山鳥たちの
火傷のような大騒ぎに、こちらまで肝を潰され
両手を挙げたままの形で、
草の中にドウッと倒れ込んでしまった。
空は、夏草のその先でくるくると廻り、ようよう立ち上がっても
ぐねりぐねりと頭の中が回って、来た道も見当たらず
もう一度ばったりとひっくり返ってしまった。
『けしからん、ここへは入るべからずとあれほど言ってある。』
その声に顔を上げると
、鹿踊りのような頭飾りをつけ
きちんと詰襟の緑のシャツを着た男がぬうっと立っていた。
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『立入禁止の看板があるだろう、それから此方は俺様の楽園だ
勝手に界境線を超えてはもらうまい。』
「あれは、確か役所が建てたものでは・・・」
緑のシャツを着た男は細長い手足をギチギチと奮わせて力んだ。

『やかましい。看板を誰が建てようが界境線を越えればこちらが法律だ。』
「そんな法律なんて聞いたことがありません。」と応えると
『ええい、法律だ。口答えする奴をアモってやれ。』と叫び
何処から湧いたか黒い身形なりの若者が三人現れ出たのである。
若者たちは、お互いにつるりとした顔を見合せながら困惑しているようで
『アモれってさ、君がアモれよ。』『アモって堪えるのかなあ。』などと
顔を見合わせているけれども、こいつ等にアモられるらしい当事者としては
「アモる」がどういう行為だか、そもそも賞罰どちらの行状かも判らない。
キョトンとなって「アモるって、いったい何ですか。」と尋ねたら、緑シャツ男は
シャツの裾を大きく開け鹿踊りの頭飾りをワナワナと震わせた。
そんな始終を見ている黒い若者たちは頭を突き合わせて
『この兄さん、アモられるのを知らないらしい。じゃあ驚かないね。』
『なら、利き目が無いよ。いっそゲゾってやればいいんだ。』
『ああ、ゲゾリンコなんて遣られたら、きっと腰を抜かすだろうよ。』
なんて勝手なことを言いはじめ、緑シャツは怒りのやり場に
夏草をブチブチと食い千切りながら辺りを跳ねまわった。
『アモるのもゲゾリも無しだ。いっそズブサを見舞ってやれ。』
黒い若者たちは大男の緑シャツよりずっと小柄な体つきで
その勢いにはなかなか付いていけないらしく、少し青くなりながら
ひとり二人と草藪の中に隠れてしまい不満そうな声だけが聞こえた。
『ズブサなんて僕らの仕事じゃあないよね、アモるとかゲゾるってのが
どんなもんだか自分だって遣られたことが無いくせにさ。
それを恩人の兄さんに向かってやらせるつもりかい。』
『さっきの山鳥にでも突っつかれたら良かったのに、この兄さんが
蹴散らかしたのを、自分の威厳で追っ払った積もりでいるんだ。』
『そうそう、帰り打ちで兄さんにペショられてしまえば良いんだよ。』
緑シャツはイライラその陰口を聞いていたが『もうお前らには頼まん。』と
言い放つと、ばっと緑
シャツを翻しながら飛び掛かってきたので
仰け反りながらも被っていた麦藁を振りかざし、めくら滅法に叩きあげた。
一瞬に辺りが静かになったから、そっと目を開いて見たけれど
そこにはもう緑シャツの大男の姿は跡形もなく消えていた。
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夏の空がまあるく雑草に縁どられて、ぽっかりと見えるだけである。
いったいあれは何だったのだろうと考えながらも行きつかぬまま
療養中の筈の重たい身体を起こし、もう一度周りを見回していると
野菊が足元から見上げるようにして『こっちだよ。』と言うから
しゃがみ込むと雑草の陰から黒い若者たちの声だけが聞こえてきた。
『ははあ、案の定ペショられたね。あんまり威張るから良い気味だ。
仲間を呼んで陽の高いうちに曳いて行こうじゃあないか。』
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紫陽花たちは
何時降るか解らぬ雨を待ってひと月余り
すっかり仕折れながら
も己の行く末などちっとも気にならぬのか
自分自身の枯れ茎を杖代わりに頼って、突っ立っている。
そっと花殻を撫でれば、風も吹かぬのに『じゃがじゃが』と
音とも声ともつかぬこと呟きながら頭を垂れて頷いている。
なにが「じゃがじゃが」だか知らないが、こんなふうで風の丘では
草も木も勝手にしゃべったり歌ったりしているのである。
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また、笹百合が信号灯のように背伸びして木道を指差し
何も言わずに、ぶいんぶいんと二三度、身震いの仕草をしたが
多分帰れ帰れと促しているのだろう。
背の高い夏草の中に分け戻ると草の実がプチプチと弾き
顔や襟もとにあたりジガジガとくすぐる。
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木道を渡りきって振り返ったら、夏祭りの終わり方のように
黒い蟻たちが行儀よく集まって列をなし、潰れたキリギリスを
静々と暗い草陰の中に曳き納めに行くのが見えた。
そこで還りの道々に「はて。」と考えていたのだが
自分は既に全身をアモられていたり、思いっきり背中あたりをゲソられ
寄りによっては心の臓辺りをズブサなんて目には遭っていないのだろうか
何しろそれらが毒気や邪気を孕むものか効用をもたらすものか
その顛末さえ判らないのだから「無事に。」とは断言しがたく
上手く逃げ果せたという確信が持てないでいるのである。
この後に療養が長引けば毒気か邪気に当たったことになろうし
もしも全快が早まれば、その効用があったのかもしれない。
:::
昨夜そんな陰妙な夢を見たものだから
確認するわけではないが
、カメラ片手に
夢の通りに麦藁を被って月の広場を訪ね
草藪に分け入り、写真を撮りながら

昨日より幾分、身心が軽くなった気がしている。
☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽YUMEBYOUTAN☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽
肋骨夢病譚▶夢の続き
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0000morinof00000000000 福岡県筑豊の小高い丘の上に棲息工房「杜の舟」を生業としながら小説・児童文学などを執筆

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