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杜の舟型録帳/木工芸・童話・小説

聖櫃の守り人・2
聖櫃の守り人・2
千年樹の憂鬱

千年樹と呼ばれていると云っても、それは当の本人だけの
願望の話しで、実のところ申しますに此の木蓮は
二十年ほど前に田主丸まで出かけて苗木を植えたもので
千年どころか百年にもおぼつかない若木なのです。
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それがどうしたことか、具合を悪くしているらしく
産土神の出土研智氏を通して相談が入ってきたのです。
申し遅れましたが私はモリノフネコと申しまして
普段彼らにはモリノフと呼ばれ、人間界との関わりの時には
杜の舟と名して、このニーダモーイの丘でケチな木工所を
やっているのですが
、この丘全体の苦情掛りのような事も
引き受けていますから時折りこうした相談が入ってくるので
こうして、店を抜け出して出向かなければならないのです。

木蓮は足元を見下ろしながら萎れた顔をして言いました
『どうもいけません、春の準備に根っこを伸ばしても
養分どころか水にさえ行きつかないのです。
根探りしながら
進むうちに伽藍洞に行き当たってしまったらしく
この先、蕾達のことが心配で心配で・・・。』
『いけませんなあ。』大抵のことなら、良いですなあと
周りに同意を求めたがる研智氏でしたが今回は
如何にも困った風で、大地を
拳でトトンと叩いてみたり
耳をつけて地下の様子を窺っているようでしたが
『現場を検証しながら思うには、この辺りは昔の
炭鉱地帯でしたから、狸掘りの後か古い坑洞にでも
出くわしてしまったのではないかと
考えられます。』
そこで試しに地下を掘ってみようという事になったのですが
研智氏と私の猫の手如きでは到底見通しが立ちません。
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聖櫃の守り人・木蓮聖櫃の守り人▶3・NPOへ続く

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・聖櫃の守り人・1
聖櫃の守り人・1
木 蓮

冷たい北風が
、すぼめ尖らせた口先でピープウプウ
笛を鳴らしながら風の丘を吹き抜けてゆき
凍えて曲がりくねった枝先にビロード外套を着込んだ
小さな木蓮の蕾たちが震えながら留まって
まだ見ぬ春を待ちわびているのです。

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この木蓮は千年樹と呼ばれるほどに大きく高く
鈍色の空に枝を広げて、ずっとずっと古い昨日も
沢山記憶に残して立っているのでした。
それからすると木蓮の花たちは春の一時を花弁一杯に受けて
そのまま萎んで枯れ落ちてしまうのでしたから
初めて迎える
一度っきりの春を、もう不安と期待で
ドギマギしながら待っているのです。
蕾達は知らないことだらけの知らないままで
僅か昨日の記憶さえ残しておくことも出来ませんでしたから
木蓮の花は生まれ出る種の子たちに明日を託すのです。
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聖櫃の守り人・木蓮◀聖櫃の守り人
木蓮の憂鬱
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金魚人
片時も水を欲っして止まぬ不安に駆られるのは
自分が室生犀星の金魚の
赤井赤子だからではなく
この季節には決まって草木花粉の鼻炎を起こし
酸素の水欲しさに口をパクパクやって喘いでいるからで
この過去数日などは外的精神緊張緩和のためにと
勢い展示室の模様変えなど思い立ったものだから
巻き上がる積年の塵埃やダニどもの死骸を吸って
偏桃体などはとうに機能を失いひび割れ火照っている
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喉も鼻腔も
巴旦杏の様に赤く熟し楊枝の先で突くなら
たちまち弾けて裏返ってしまうであろう程に炎症しているが
表面は
砂漠の様に乾燥し切って白い粉を噴いているから
身体がぱくぱく水を欲しがる気持ちは解らなくもないが
その乾燥し切った筈の洞から止め処なく流れ落ちる
この溺れ死にするような鼻水の量と来たらどうだ

理不尽と不条理に絡められたように酸素を求め
水を求めるさながら金魚人である

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風の灯台・2 Lilla
風の灯台
2・Lilla
ずっと忘れることのない名でありながら
こうしてその名を耳にするのは15年振りの事である。
「リラの若いころにそっくりなお前さんに
気易くモリンなんて呼ばれると胸が詰まって・・・」

モリノフは言葉を切り、吹き抜ける懐かしい風を追うように
遥かな空に遠い目線投げた。
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『小さな時からそう聞かされて、やっと逢えたんだもの
だから一番に、モリンと呼ぶように決めていたの。
ねえ、お願いそう呼ばせて。私の中ではあなたは
モリン以外の誰でもないんだもの。』
「弱ったな、良いだろう、好きに呼ぶといい。その代わりに
お前さんのことはイングランド流にライラと呼ばせてもらうよ。」

あの頃、天空を泳ぐ鯨のような飛行船に憧れて
いつか自分も大空を飛んでみたいと思っていたものだ。
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リラと出会ったのは、そんな夢多き遠い昔
のこと。
**************KAZENOTOUDAI************
懐かしい名前風の灯台3・Glen
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毎年風の丘ホールにて開催されている
坂元昭二ギターソロライブと杜の舟のコラボ展
来年は10年目を迎え次回のお題は「風の灯台」
何時の様に仕事をしながら自ら振ったお題を妄想。

「風の灯台」に何の構想もなく、今回のお題「羅天」で
飛行船の挿絵を描いたことからつい飛行船繋がりで
夜間飛行の時に「風の灯台」があればなどと
妄想したのが切っ掛けであった。

来年のコラボ展に向けての妄想進行中・・・

出土研智物語・15
出土研智・15
赤い大地

お絹さんからアフリカンパドックの「色」について
問い合わせがあり、その主産地であるナイジェリアから
カメルーン、ザイールへとインナートリップ。
アフリカ、良いですなあ。』

こんな時には大抵、出土研智氏があらわれるもので
今回もご多分に漏れずアフリカへ同行することになった。
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『いやはや、熱うございますな。本当はこんな処まで来なくても
産土神の私に、趣旨をお訪ね頂ければ済みましたものを。』
「ウブスナガミ?」
『申し上げていませんでしたかね。私くし、モリノフ猫さんの産土神で。
いえいえ、神様と言っても、あなたが風の丘の地に生を受け
そこに棲まえることを森羅万象の中のたった一つに許容し
「此処に居て良いのだと申し示す」と云うだけの役柄でしてね。』
なるほど、だから神とは申し示すものと書くのか
つい願い事を叶えてくれたり、荒ぶり罰を与えたりと
勝手に解釈していたが、全ての判断は己自身にあったのだな。
ご最もなご理解、良いですなあ。』
「これから何と呼ぼう。出土研智(いですなけんぢ)も悪くなかったが
産土神は実に響きの良い名ですねえ。」
『いえいえ、神なんてのは役柄の分ですから、是非ともウブスナで。』
ウブスナは森羅万象のそれぞれの産土たちとの繋がりがあり
アフリカの大地に立つアフリカンパドックとも交流出来るらしい。
『お尋ねのアフリカンパドックの赤い色は、
オーロンという
濃い黄色や橙赤色の色素によるものと考えられていて

マメ科の樹木に多く含まれるイソフラボンの中にサンタルビンと
サンタリンいう成分があり、これを理解し易くお伝えすれば
フラボノイドの化合物であるポリフェノールやアントシアニンなどの
色素がこのアフリカンパドックの赤い色に関係しているようです。
同じマメ科の紫壇、ローズウッドなどの粉末などは
外傷
腫れ物に塗布し止血や治癒などに期待されています。
アフリカの過酷な条件の中「ここに居て良いんだよ。」と云われ
虫や腐朽菌などから身を守るために備えられたものでしょう。』
なるほど、ウブスナも借り物ながら、なかなか博学である。
考えてみれば同じアフリカのブビンガ材もマメ科
南米のパープルハートもマメ科である。
ウブスナは赤い大地の日干し煉瓦で拵えられた日陰から
顔を半分だけを覗かせて話しを続ける。
『モリノフ猫さんのお考えである、赤い大地の鉄分について
確かに紅海からアフリカ大陸を縦に走る大地溝帯は
マントルの上昇流によって地殻深く沈んでいた重い金属
そう、鉄分などが地表に持ち上げられて堆積したもので
紅海の赤い色も、多分にこの土のためでしょう。
水分中に溶け込んだ微細なシリカや酸化第二鉄などは
導管から吸い上げられ導管内に留まり沈着したりして
色素の要因の一つになるとも考えられています。
経年変化により、だんだんに黒ずんでくるのは
酸化第二鉄の酸素が奪われて黒化、つまり赤錆びから
黒錆びへと変化していくのかもしれませんが
これから先は学者の領域でして、産土神は案外と
浪漫智衆人で夢の方に思考が傾いています。』
ウブスナは立て続けに講釈して、すううっと
吸い込まれるように、日干し煉瓦の影の中に消えた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆IDESUNAKENDIMONOGATARI☆☆☆☆☆☆☆☆☆
虎落笛出土研智物語16・産土

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