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杜の舟型録帳/木工芸・童話・小説

舟灯かり
まだ色残る落ち葉たちを騒々と走らせながら
木枯らし吹くこの時節になれば
赤い八重の椿が
母の部屋を覗き見るように
背伸びして花を咲かせる。
庭木の中では最も
古く、また想い出深い椿であるが

今年は、新たな想いを重ねてその花を見ることになった。
その椿が我が家に仲間入りした時には、まだ開襟の学生服を
着ていたから小学生の頃で、今から
五十数年前のことになる。
小さな炭鉱街の植木市に家族で出かけた時に、父がこの小さな
苗木に真っ赤な花が一輪咲いているのをを見つけ
「ほう、綺麗なもんじゃねえ。」と手に取った。
私にも「見てみい。綺麗じゃろ。」と、同意と揶揄い半分に
ぐいと鼻先に押し付けるように差し出してくるから
眩しい花の赤さとその冷たさに思わず首をすぼめた。
父は茶色のジャンバーを着て、母も縞の着物だったのを覚えている。
それに、それも花をつけていたのだから、丁度今頃
の季節
炭鉱購買部の歳末売り出しにでも合わせた植木市
であったろう。
父は、後ろで見ていた母の目の前にも、それを挿し出して
「母ちゃん、これ買うてくれんか。」と頼んでいたが
即座に「そらあ、高いばい、勿体なあい。」と断られていた。
茶色い鳩目のチッキに『シシガシラ150円』と大きく
マジック書きされた値札が、
不釣り合いなほど細い枝に
針金でキリキリと
括り付けられているのも痛々しい。
昭和30年代の頃であるから当時の台所事情では
なんの腹の足しにもならぬ、ひょろひょろの椿に
150円は確かに無用な出費に思えたかもしれないが
滅多に物をねだらぬ父が欲しがっているのだから
『お母さん、買うてやれば良いのに。』と子供ながらに思っていた。
珍しく「良いじゃねえかよお。買うてくれ。」と喰い下がる父に
「もおおぅ・・・。」と言いながら、蝦蟇口から百円札を出した。
それが買えたのも勿論嬉しかったが、セメン袋に巻いて
麻縄で括った小さな苗木を、ほくほくした顔で受け取る
父の顔を見るのがもっと、もっと嬉しく、心満たされた。
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そんな父も亡くなってから四十八年の月日が流れ
先十二日、夕日に曳かれるように母も此岸
を離れて
漸く彼岸で待ち侘びる
父のもとに渡ることになったが
九十七歳の婆さんでは多分見紛われてしまうだろうから
迷わぬよう、棺の舟灯かりにこの赤い椿を添えた。

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檸檬月夜の朝は
何時もと違って檸檬月夜の朝は
お陽様の出る前に跳ね起きて
白い息を吐きながら

千草に宿る露に裾を濡らし
風の丘をひと巡り
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まだ明け遣らぬ朝闇の梢で
残る月の燐光がほうほうと光って見えるのは

檸檬月夜の演舞会に集まった妖精たちが
夜露に濡れた翅を小枝にかけて
陽の昇る前に杜深くへと帰ったからです
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生まれたばかりの朝陽が昇り始めたころ
蜘蛛の巣網に捕らえられた妖精の翅
それはきっと誰にだって憧れで
翅を持たない蜘蛛なら尚更でしょうが
次の檸檬月夜の演舞会には
この妖精はどうなるのでしょう
そっと巣網から放して
小枝に掛け直してあげようか
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そう思案しているうちに
露玉は朝の大気に昇華され
何時もの一日が始まるのです
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聖櫃の守り人・2
聖櫃の守り人・2
千年樹の憂鬱

千年樹と呼ばれていると云っても、それは当の本人だけの
願望の話しで、実のところ申しますに此の木蓮は
二十年ほど前に田主丸まで出かけて苗木を植えたもので
千年どころか百年にもおぼつかない若木なのです。
005_20190126144740431.jpg
それがどうしたことか、具合を悪くしているらしく
産土神の出土研智氏を通して相談が入ってきたのです。
申し遅れましたが私はモリノフネコと申しまして
普段彼らにはモリノフと呼ばれ、人間界との関わりの時には
杜の舟と名して、このニーダモーイの丘でケチな木工所を
やっているのですが
、この丘全体の苦情掛りのような事も
引き受けていますから時折りこうした相談が入ってくるので
こうして、店を抜け出して出向かなければならないのです。

木蓮は足元を見下ろしながら萎れた顔をして言いました
『どうもいけません、春の準備に根っこを伸ばしても
養分どころか水にさえ行きつかないのです。
根探りしながら
進むうちに伽藍洞に行き当たってしまったらしく
この先、蕾達のことが心配で心配で・・・。』
『いけませんなあ。』大抵のことなら、良いですなあと
周りに同意を求めたがる研智氏でしたが今回は
如何にも困った風で、大地を
拳でトトンと叩いてみたり
耳をつけて地下の様子を窺っているようでしたが
『現場を検証しながら思うには、この辺りは昔の
炭鉱地帯でしたから、狸掘りの後か古い坑洞にでも
出くわしてしまったのではないかと
考えられます。』
そこで試しに地下を掘ってみようという事になったのですが
研智氏と私の猫の手如きでは到底見通しが立ちません。
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聖櫃の守り人・木蓮聖櫃の守り人▶3・NPOへ続く

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・聖櫃の守り人・1
聖櫃の守り人・1
木 蓮

冷たい北風が
、すぼめ尖らせた口先でピープウプウ
笛を鳴らしながら風の丘を吹き抜けてゆき
凍えて曲がりくねった枝先にビロード外套を着込んだ
小さな木蓮の蕾たちが震えながら留まって
まだ見ぬ春を待ちわびているのです。

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この木蓮は千年樹と呼ばれるほどに大きく高く
鈍色の空に枝を広げて、ずっとずっと古い昨日も
沢山記憶に残して立っているのでした。
それからすると木蓮の花たちは春の一時を花弁一杯に受けて
そのまま萎んで枯れ落ちてしまうのでしたから
初めて迎える
一度っきりの春を、もう不安と期待で
ドギマギしながら待っているのです。
蕾達は知らないことだらけの知らないままで
僅か昨日の記憶さえ残しておくことも出来ませんでしたから
木蓮の花は生まれ出る種の子たちに明日を託すのです。
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木蓮の憂鬱
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金魚人
片時も水を欲っして止まぬ不安に駆られるのは
自分が室生犀星の金魚の
赤井赤子だからではなく
この季節には決まって草木花粉の鼻炎を起こし
酸素の水欲しさに口をパクパクやって喘いでいるからで
この過去数日などは外的精神緊張緩和のためにと
勢い展示室の模様変えなど思い立ったものだから
巻き上がる積年の塵埃やダニどもの死骸を吸って
偏桃体などはとうに機能を失いひび割れ火照っている
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喉も鼻腔も
巴旦杏の様に赤く熟し楊枝の先で突くなら
たちまち弾けて裏返ってしまうであろう程に炎症しているが
表面は
砂漠の様に乾燥し切って白い粉を噴いているから
身体がぱくぱく水を欲しがる気持ちは解らなくもないが
その乾燥し切った筈の洞から止め処なく流れ落ちる
この溺れ死にするような鼻水の量と来たらどうだ

理不尽と不条理に絡められたように酸素を求め
水を求めるさながら金魚人である

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