杜の舟型録帳/木工芸・童話・小説

ギチと圧力
~ある不甲斐無き弟子Gichi・Monteiの物語~
第十五話・ギチと圧力
『師匠、大丈夫ですか。』
無粋なギチの早朝一番の挨拶である。
「何が?」
『いやあ、こんな暗い所で背中丸めて仕事してるから。』
「光の圧力を最小限にしているだけだよ。」
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『はあ?光の圧力ですか』

考えてみれば、こんな奴に光りの圧力の話しをしても仕方がない
世間の圧力や親御さん達からの圧力も感じてはいないのだ。
「詰まらんことを聞くな、どうせお前なんかにゃあ解らん。」
『光りの圧力がどうのじゃなくて、師匠、スランプかなんかで
落ち込んでいるのかと思って、心配になったものですから。』
「けっ、お前なんかの心配は無用だ。なあにがスランプだ。
せっかく光りの圧力から逃れて孤独を楽しんでいたのに
人の心配より少しはマシなものが出来るようになったのか。」

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最近ギチの作品を見ても俺が褒めないものだから、あちこちの
作家君のところを回っては評価を仰いでいるらしい。
ギチはその話題、待ってました。と言わんばかりに顔を輝かせて
抱えていた段ボールの箱から作品らしきものを見せようとしたから
「俺は見らんぞ。」と両手で制してやった。
ギチは『はあ・・・。』と気の抜けた返事をしながらも話しを続ける。
『この頃、いろんな作家さんから褒めて頂けるようになりましてね
やっと認められて一人前になれたなと思うようになりました。
お陰で作家さんの友達や、お知り合いもたくさん増えましたよ。』
「馬鹿か、同業者に褒められている間は半人前だ。
お前のレベルが低いから安心して褒めていられるんだよ。
作家なんてなあ、妬まれたり恨まれたりするようになって
やっと一人前だと、俺は思っている。」
『何か悪いことでも、したんですか。』
「自分のやる仕事に良いも悪いもないさ、好きなことをやってる
皆、作家君達もそうだし、そうあるべきだ。」
うちに出入りする一人前の作家諸氏は俺の事を恨んだり
妬んだり悔しがったりしながら関わっている。
ここに来て作品を見ていると、作れなくなってしまうから
訪ねてきても余り作品を見ないそうだ。
お互いが夢中になって物を作る、それが他の作家のものに
似ていると、
がっかりしてやる気を失う。
やろうと思っていたことが先を越されていたり、うっかり
それらの作品に影響を受けてしまったりすると
アイデンティティーを見失いそうになる。
「作家が友達ゴッコなんて、やってると仕事する暇ないだろう
だから、あいつのところへは行きたくないって思われるような
仕事してりゃあ、仕事は捗るし何とか喰えるようになる。
喰えなきゃあ一人前も半人前もない、シロートさ。」
ギチは段ボールの箱を抱えたまま立っているから
しっしっ、と手で払いながら「要らん心配をせずに自分の
やりたいことをやれ、評価は後回しだ。」と言って背中を向けた。
それでも動かずに立っているギチの圧力を感じたから
「俺は今、孤独を楽しんでいるんだ!」と
背中越しに怒鳴るとスッとギチの圧力が消えていった。
ふふふ、やっと半人前になったな。
:::::::::::ParasiteEssay:::::::::::
門弟ギチGichi・Montei ▸そのうち続く

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ギチと効率
『師匠なんで旋盤使わないんですか。』
「大きなお世話だよ。」
人が気分よくオルゴールの共鳴箱を作っているのに
いらぬ所に首を突っ込む奴である。
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「旋盤で加工すりゃあ10倍速く出来るのは分かってるよ
お前みたいなひよっ子に色々言われたくはないな。」
『だってその方が効率いいでしょう、師匠は何時も
効率よくやれって言ってるくせに。』
「技量のある作家があえてそれを選ばない理由を考えろ。」
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そんなことをギチに考えさせても仕方がないかもしれない
削りかけた共鳴箱を上から下から見回しながら
頭を傾げているだけでちっとも想像が膨らんでいる様子はない。 
「味だよ、味。杢目をひとつひとつ拾いながら
味わいを楽しんでいるんだよ。
旋盤は被切削物が高速で回転するから杢目が拾えない
早く均一に作るには良いが味が出ないだろう。
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『早くて均一なものなら安く売ることが出来ます。』
「おお、もっともだ。ところがそこに落とし穴があるんだ
手え抜いて早くやれば人件費は浮くが、時計やオルゴールは
中に組込む機械の部品があるから、上代を下げれば下げる程
仕入れた部分のパーセンテージが上がることになるだろう。
よそ様の企画展示会などで参加費は売り上げの2割とか
3割と言うのがあるが、その分支払ってたら仕入れた部品の
ウエイトが更に上がり、純粋な利益を押し縮めてしまうだけ
だから、部品屋が喜ぶだけの仕事ってことになりはしないか。
それに旋盤使わなきゃあ、こうして自由に造形できるだろう。」
『はあ、自由な造形ですか・・・。』
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「売りたいために作るのではなく、作り続けたいから売る
その基本を忘れて売るためだけの効率を考えると
ちっとも面白くないんだよ。別にこんな考えを人様に
押し付けるつもりもないのだがよく身もせず、考えもせずに
人様の仕事につべこべと口を挟む奴は癇に障るんだよ
解かっても解からなくても良いから、あっちに行ってろ。」
このくそ暑い作業場でこちらに向けている扇風機の前に
ぼけ~っと突っ立っているから余計に鬱陶しいやつである。
確かに常日頃、ギチには効率よく仕事をこなせと言っているが
仕事がただの作業になってはいかん、手作業といえど
こころで作れ、こころがくさい言葉と言うなら
常に脳みそで意識してやれ。と言いかけたが
もうとっくにギチは作業場の隅に姿をくらましている。
まあ、どうせ話しても理解はできないだろう
俺の頭の中は理不尽やパラドックスが渦巻く
ソラリスの海のようなものだから・・・・・・
:::::::::::ParasiteEssay:::::::::::
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ギチとバターナイフ
「まるでなっていないな、今まで教えたことや
俺の後ろ姿見てきて、全く頭に入ってないんだな。」
ギチが自宅に中古の木工機械を仕入れたので
家でもバターナイフが作ってみたいから改めて手解きを
なんていうから、取って置きの材料を出してやったが
二年ばかり通いながら本番となると何も覚えていない。
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「お前のはバターナイフだかスプーンだか解からないし
材料の歩留まりも製作効率も考えられていないな。」
『いちおう、いろいろと考えたんですけど・・・』
相変わらずなやつである、形取り自体が杢目も見ずに
いい加減中途半端なところに描かれているし
自分の持っている道具の能力も分かっていないらしい。
「お前のサンダーの軸は100Rだぞ、その機械に合わせて
デザインしないと非効率だろう、おまけにヘラ幅が30㎜を
越える意味はどこにあるんだ、無意味に広くすると
材料のコバ側では木取りが出来ないから杢を読めないだろう。」
ところで、ギチのやつは羽振りの良い訳もないのに
最近、中古車の軽を手に入れたらしく、雨の日も濡れずに
やってくるようになったし、ポンコツながらサンダーも買った。
まさか本気で木工やる気でもあるまいに・・・・・・
「機械なんか買ってどうするんだ。」
『毎日お伺いすると迷惑かも知れないから少しは自宅でも
やれるようにと思ったんです。そしてきっと暖簾分けをと
考えているんです、師匠。』妙に師匠なんて後付けしやがって
そんなことで動揺する俺様ではないぞと思わず動揺してしまった。
「何言ってやがる、まだ門弟でもないのに暖簾分けなんて
ふざけた野郎がいたもんだ。そんなことより俺の話しを
耳の穴かっぽじってしっかり聞いておけ。」
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この辺りが結構大事なことで、定番で数物となれば
材料の安定供給を考えておかなければならない。
家具用の輸入材は大抵インチ2分、詰り1.2インチで
30㎜仕上りの物が多く、内地材なら1寸物が多いから
30㎜以内で形を起こす方が断然歩留まりが良いのである。
ギチには何度も言って聞かせたつもりなのに、いざデザインを
となると、肝心なそこのところが吹っ飛んでしまうらしい。
勿論、機械加工できない部分の手作業も必要であるが
その部分が大きく効率を下げ価格に跳ね返ってもいけないし
そもそも、それが付加価値に反映されないものなら
自己満足の世界でしかなかろう。
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「まず、木口の割れがないかどうか確認して、端から
治まりの良いように、杢を読みながら形取りをやるんだよ。」
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「これなら曲面のRも100㎜以上だしヘラ幅も30㎜
以内で納まっているだろう。」
『さすが師匠だけはありますね。』
「馬鹿野郎。お前の上手くなったのは下手なお世辞くらいだ。
俺んとこのサンダーの軸は25Rだから、もっとデザインの
幅が広がる。それぞれ持ちあわせた機械に合わせて
デザイン起こして行くしかないんだよ。」
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いくら言ったところで心と身体で感じなきゃあ
解からないことであるからギチの帰りしなに
上等の材料を少しばかり持たせてやった。
自分だけで考えて、出来上がってくる作品が楽しみである。

杜の舟は技術が高いわけでも仕事が早いと言うのでもない
道具の能力を知っていて何とか使いこなせているから
効率よく回っているだけのことである。
きょう夕方から家具作家のT氏が来て
木工教室を引き受けたので取り組みについて
アドバイスを戴きたいと言うから、現場での実習の中
材料の上げ下げから生き方まで厳しく指摘してみた。
言い過ぎて嫌がられたって構わないのである
それで友達が少なくなれば仕事をする時間が増える。
ライバルが増えるのなら、またそれも宜し。
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ギチに刃物
朝一番に刃物を砥いでおこうと思うのだが
砥ぎ場が塞がったままで刃物を砥げずにいる。
「ギチ~、まだ掛かってるのか。」
「はああ、も少しですから。」相変わらず腑抜けた返事を
する奴である。刃物の砥ぎなんてちょちょいっと4、5分も
有れば出来る筈なのに、もうかれこれ20分ばかり
籠ったままである。こんな時は大抵怪しいからまた呼んで見る。
「ギチ~、いま砥いでる刃物持って来おい。」 
ぬーっと顔を出したギチは、冬だというのに額に汗を滲ませていて
首から下げたタオルで砥ぎ疲れた顔をぬぐい、刃物を拭き上げると
「どうです、随分光ってるでしょ。」と得意そうにぎらつかせた。
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「なんだ、この刃物は、あちこち刃こぼれしているじゃないか。」
「はあ、例の世界一硬くて重たい、リグナムバイタ材を
試しに削っていたら、ぼりぼり欠けてしまったんですよね。」
「馬鹿野郎、何度言ったら解かるんだ、『試しに』なんて逃げ場
作って甘ったれた仕事するな、常に本番で腕と頭あ鍛えろ。」
ギチの手から刃物をもぎ取って、光りに透かして見れば刃先の欠け
だけでなく赤錆の浸食が酷くて鋼の部分にも食い込んでいる。
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この黒斑は錆の浸食だから砥ぎ進むうちに刃先の欠落として
刃の欠けと同様に現れることになる。
「刃物、可愛がっていないな。」
「いやあ、ちゃんと磨いてますよお。」
「同じこと何度も言わせるな、磨くじゃない、砥ぐだ、砥ぐ。」
刃物なんて幾ら磨いて光っていても切れ味とは関係が無い
砥ぎ上げる。いかに鋭利に平坦に砥ぎあげるかが刃の切れ味を
左右するのである。表面の赤錆なら、ひと撫ですれば無くなるが
錆の腐食、浸食や刃先の欠損は刃物の命取りである。 
「欠けが取れるまで、も少し磨いて・・・あ、砥いできます。」
朝っぱらから説教するも、されるも鬱陶しいとは思ったが
つい神経にプチンと触ったからには仕方が無い。
「簡単に言われちゃあ適わんなあ。」
刃物は作家の指先の延長であり、心の延長でもある
僅かな刃の砥ぎ角や砥ぎ減って逝く長さで削り肌も変わってくる
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裏刃を返して見れば鋼の部分に4㎜程も腐食が上っていて
刃こぼれの深さは1㎜弱が数か所、中央窪みの透きの部分も
赤錆が浸食を始めている。
「あのなあ、通常刃物を砥ぎ降ろすのは数十ミクロン単位だぞ
多分1㎜砥ぎ減るまでに、50回とか100回の砥ぎをやってる。
詰り1㎜の刃こぼれが、半年とか1年分の刃物の寿命を
縮める事になる訳だ。それからすると裏刃の錆は2,3年分の
寿命を縮めている事になるな。手に馴染んだ刃物の寿命を
縮めることは、翻って作家生命をも縮めることになりはしないか。」
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珍しくギチの奴、神妙に聞いているが何処まで解かったのやら。
少しは木の心や、創作への精神性が分かるようになったろうかと
ギチの左に巻いたつむじをみながら思うのである。
そのつむじを、がばっと上げたかと思うと、一声
「で、どうしましょう。」ああ、先が思いやられる。
「あのなあ。自分で感じろ、考えろ。」
仕方が無いか、まだ作家のひよ子にもなれないでいる奴だ
「幸い、切れ刃の真ん中あたりは損傷が無いから、半年か
1年掛かりで砥ぎ減らしながら使い込むんだな。」
ギチはうやうやしく両手で刃物を受け取ると「はいっ。」と
から元気な返事をしやがる。
ふん、返事だけは良くなってきたな・・・・・・。
こいつが杜の舟に現れてから、かれこれ2年半になろうとしている
まったく・・・少しは返事以外も上達しろよ。

私のようにケチでヒネた性分で他人に道具を貸さないし
借りたくもないという変な職人もいるが、そんな杜の舟を見て
おおむね職人なんて、こんなものだろうと誤解をされないように
職人が刃物類を他人様に貸したがらないのには
このような心情があること、お含みおきを。
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門弟ギチGichi・Monteiギチとバターナイフ

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ギチの自転車
ギチは何時も自転車で現れる
ここ風の丘は小高い丘の上にあるから、下界の県道からは
ずっと上り坂が1km余り続いているのだが
奴は若さをひけらかして、この坂道を延々漕いであがる。
そうして、庭の際に自転車を鍵もかけずに、ぽいっと停めている。
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こんな写真、何だか見覚えがあるなと思ったら
昨年の10月26日にも同じところで撮っていた。
しかし、ギチは本当に妙な奴である。
雨が降ろうと雪が降ろうと、こうして同じところに停めたがる。
何だかこっちが根負けして、軒先を貸すことにした。
「おい、ギチ。いつもあんな邪魔になるところに停めやがって
そっちの軒下にでも停めておけ。」
ギチは、「あ、有難うございまあす。」と、へらりと笑って
今年の5月の改造で継ぎ足した軒下に自転車を置き直した。
「そこは通路だからな、俺んところから隣の蒼林窯に行くとき
邪魔にならんように置くんだぞ。」
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早いものである、昨年の9月28日以来1年余りが過ぎた。
まだ正式に『弟子にする』なんて契約はしていないのにである。
何しろ、こんな奴の相手をする程、暇ではないし
11月末から年末にかけての納期ある仕事が山積みだし
もう大抵、干支の兎に取り掛からないと間に合わない。
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しまった、今回はギチの自転車の事ばかり書いて
仕事のことは何にも書けなかった。
また、ネタに成りそうなものをばら撒いておかなければ・・・・・・。
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門弟ギチGichi・Montei ギチに刃物

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