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杜の舟型録帳/木工芸・童話・小説

風の灯台・1 懐かしい名前
風の灯台
1・懐かしい名前
細々とした稼ぎは本業の木工屋でやっているが
これと言って他に趣味らしいものもないので
年中工房に籠って木工作業ばかりをやっている。
此処は小高い丘の上にあるので風の駆けあがりに乗って
丘の下からふいと鳥たちが目の前をかすめて上がってくる。
迷走台風の余波で気層が乱れて幾重にも重なる雲が
てんでばらばらに向きを変えて東や南へ流れて
一等下層の千切れ雲などは草臥れた古綿の様に

ほろほろ
解れながら深い杜に吸い込まれる。
近頃妙に空を近く感じるのはそんな景色でもなく
銅色に窶れて山の端に沈む月食や、
南天高くに明々と
灯された
燭台の様な火星の大接近のせいでもなかろうが
朝な夕なに空を見上げるたび、空への熱い想いが蘇り

また風と光の中に空泳ぐ魚の様に身を任せてみたくなった。
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長く封じていた小さな飛行船を整備して
大空へ
目的もなく。そう、若いころはそれで良かったのだろう。
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時を重ねるごとに分別ばかりが身について
取り合えず「目的もなくという目的」を見つけ出し
風と光を読み
ながら十数年ぶりに時空を泳いでみた。
飛行船と云ったって気球に古いエンジンをくっつけた程度で
フライトのたびに整備や修理が欠かせない
旧型の古い船である。
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『ねえ、モリン。』

籠に乗っかって整備をしているところに突然背中越しに声を掛けられ
振り返れば十四か十五ばかりの見知らぬ女の子が立っている。
「何だいきなり、それに俺の事をモリンなんて呼ぶのはよせ。」

もう長く耳にしない古い名で呼ばれたことに驚きながら
「俺はモリノフだ。」何の用だと問う前に彼女は一歩近づいて
『私はリラ。母さんはあなたの事を話す時いつもモリンと言うわ。』
「母さんって、誰だ。」
『母さんはLがふたつ
Lilla。わたしはLila。父さんが付けてくれたの。』
「Lilla・・・」
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毎年風の丘ホールにて開催されている
坂元昭二ギターソロライブと杜の舟のコラボ展
来年は10年目を迎え次回のお題は「風の灯台」
何時の様に仕事をしながら自ら振ったお題を妄想。

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「風の灯台」に何の構想もなく、今回のお題「羅天」で
飛行船の挿絵を描いたことからつい飛行船繋がりで
夜間飛行の時に「風の灯台」があればなどと
妄想したのが切っ掛けであった。

来年のコラボ展に向けての妄想進行中・・・

**************KAZENOTOUDAI************

懐かしい名前◀風の灯台2・Lilla
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夢病譚・6 眼鏡の向こうに
夢病譚・6
眼鏡の向こうに

もう使われなくなって随分になる作業机に手を触れると
微かなマシン油と埃の匂いがして胸が熱くなり
記憶の糸に誘われるように抽斗の引き手に触れてみる。
あの頃のこの
真鍮製の引き手は、触れていたところだけは
何時も金色に眩しく光っていたものだけれど
今では錆色の空気に同化したように光を失ってしまった。
その使い込まれていた抽斗はそっと手を掛けただけで
奥から推されて滑るように引き出され
窓辺から差し込む午後の陽射しにキラと反射する。
「眼鏡・・・。」
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そっと取り出して作業机に置けば遠い記憶が甦り
この眼鏡を通して何時も同じものを見てきたような
「旅先の風景も、風も光も花も鳥達も、そうして子供達の笑顔
泣いて笑って
ずっと一緒に暮らしてきた街の灯り。
全部二人で見てきたものばかり。」
『今も覚えているよ。』
静かに眼鏡が笑った様に応える。
『でも、何時も傍にあって、君だけが見ていなかったものもあるよ。』
「・・・なあに?」
『君の笑顔。今も見ている、忘れないよ。』
「ふふふ、ずっとあなたの眼鏡に映っていたわ
そして眼鏡の向こうに、貴方の知らない優しい笑顔も。」
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古い眼鏡はそれまでに見てきた風景や時を
記憶しているのだと云うから
時計屋の娘、お絹さんのレジン作品のための
眼鏡の木枠を手掛けながら
ふわりふわりと妄想回廊を巡ってみた。

☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽YUMEBYOUTAN☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽☽
肋骨夢病譚▶夢の続き

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出土研智11・君の名は、
『いやあ、良いもの見つけましたなあ。』
見知った見知らぬ人などと謂う表現があるのかどうか
幸運の四葉のクローバーを見つけてホコホコと喜んでいる処へ
ふわりと突然現れる。
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「あなたは一体?」
『ああ、私ですか。名乗っていなければ失敬でしたね
私しの仮り名はイデスナケンヂ、漢字で書くと出土研智です。』
「出土さん、道理で話しの端々に良イデスナアと謂われる。」
『まあ、それもありますが真の名は別にあります。
そんなことより四葉のクローバーは良いですなあ。』
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『気づかれましたか、幸せは
土から生まれ土に還る
そんな風に見立てると実に有難いものです。この世界なんて
理不尽と不条理で成り立っていて、その複雑な組み合わせの中の
奇跡によって幸せが生まれるのだから有難いのです。』
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聞いていると何だか条理のようだけれども不条理だと
出土研智氏を振り返ったら、四葉のクローバーを
チョコリと取り上げて『人様を幸せにするためには
まず自分が幸せでなくてはいけませんから・・・」
・・・この人が誰か、仮り名だけは分かった気もするけれど
「真の名」って何だろう、そして何処から来たのだろう。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆IDESUNAKENDIMONOGATARI☆☆☆☆☆☆☆☆☆
虎落笛出土研智物語12・てんぷら野郎
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出土研智物語9・郁子
強い木枯らしに吹き飛ばされて
里山の落葉雑木林も明るくなり
葉隠の郁子(むべ)が満面の笑顔を覗かせてきたので
仕事を放ったらかして収穫

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『好いですなあ。』
すっかり見知った人ではあるが
こんな時には、いつの間にか現れ
労せずして郁子を横取りしてしまうのである。
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『散策しながら種を辺り構わず吹き飛ばすなんて
じつに愉快痛快ですなあ。』
あまり辺りかまわず吹き飛ばすと来年にはあちこちから芽が出て
草刈りが大変になるので、後の残りは旋盤作業をしながら
もごもご食べて足元にプイプイと種を蒔き散らす。
・・・知らない人がこの惨状を見たらゴキブリの卵に見えるかも。
:::
郁子の「郁」は香しいとか香りの強いことを表すのだそうだが
鼻を近づけてみてもそんなに強烈な匂いはなく
味はアケビがさらりと和三盆なら郁子は黒糖のように
コクがある感じかな。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆IDESUNAKENDIMONOGATARI☆☆☆☆☆☆☆☆☆
虎落笛出土研智物語10・鍍金のどんぐり
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葡萄の色
パラノイアエッセイ 第十三話
葡萄の色
『モリノフ君、
葡萄が色着いて来たぢゃあないか。』
唐突さ加減と獣ぢみた野太い声で、私のことを
モリノフ君などと呼ぶのは
彼以外にはなく、少し驚きはするが
「ああ。」と直ぐに状況を引き受けてしまうのが常である。
それが梶井基次郎であることは判っていたから
振り返り見る事もせずにその声に応える。
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「ええ、もう七月も終わりますからねえ
お盆には何時も
祭壇へ色着いたのをお供えしますから。
この度はまた、お久し振りですが、今までどちらへ。」
『ふふん、君が思い出さんから冥府を漂っていたのだ
何時も謂うが俺は精神を乗せる舟を持たんから、一時的に
君の舟に相乗りさせて貰って居るんぢゃないか。
葡萄が色着き始めるころには冥府の扉が緩くなるから
そいつに惹かれて、ひょいと立ち寄った迄だ。』
何時もの事ながら基次郎は相手の都合も考えず
現れるようにも見えるが、彼曰く「私が思い出しさえすれば」
確かに現れるのである。
『忘れちゃあ居ないだろうな、もうすぐ
従妹の礼子嬢
何十回目かのバースデイと謂う奴だ。』
「覚えては居ますが・・・。」
『何だ、その「居ますが・・・。」って謂うのは。』
「もう七月も終わってしまいますねえ・・・」
『良いんだ、覚えてさえ居れば。人は認識の中にのみ存在する
例え実体が在ったとしても誰からも認識されなければ
存在しないのと同じ事で、この満ち満ちたる空気でさえも
認識なくば「無い」のと同じ事なんだ、
ぢゃあ安心したから還るぜ。』
今回は基次郎とは久し振りの再開であったのに
背中越しの会話だけで姿も見ないままであった。
「基次郎さん、どちらへ。」と振り返った時には姿もなく
『冥府だよ。』の声だけが耳に残る。
パラノイアエッセイの読み方
パラノイアparanoia
体系立った妄想を抱く精神病。妄想の主体は
血統・発明・宗教・訴え・恋愛・嫉妬・心気・迫害などで
四十歳以上の男性に多いとされる。分裂病のような
人格の崩れはない。偏執病。妄想症。
いったい何の事だか分からないが、当てはまっている
ところが無いこともない・・・・・・。
そんな訳でポコンと現れた、言葉や映像の断片から
妄想が膨らみ、四次元浮游の基次郎などが現実世界に
絡んで来ると言う、不可思議なエッセイであるから
元来パラノイアエッセイの読み方なって謂うのも無く
理解などという範疇を超えての御愛毒を。
:::::::::PranoiaEssai:::::::::
檸檬と悪魔基次郎の予感十四話へ続く
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