杜の舟型録帳/木工芸・童話・小説

出土研智物語9・郁子
強い木枯らしに吹き飛ばされて
里山の落葉雑木林も明るくなり
葉隠の郁子(むべ)が満面の笑顔を覗かせてきたので
仕事を放ったらかして収穫

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『好いですなあ。』
すっかり見知った人ではあるあ
こんな時にはいつの間にか現れ
労せずして郁子を横取りしてしまうのである。
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『散策しながら種を辺り構わず吹き飛ばすなんて
じつに愉快痛快ですなあ。』
あまり辺りかまわず吹き飛ばすと来年にはあちこちから芽が出て
草刈りが大変になるので後の残りは旋盤作業をしながら
もごもご食べて足元にプイプイと種を蒔き散らす。
・・・知らない人がこの惨状を見たらゴキブリの卵に見えるかも。
:::
郁子の「郁」は香しいとか香りの強いことを表すのだそうだが
鼻を近づけてみてもそんなに強烈な匂いはなく
味はアケビがさらりと和三盆なら郁子は黒糖のように
コクがある感じかな。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆IDESUNAKENDIMONOGATARI☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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葡萄の色
パラノイアエッセイ 第十三話
葡萄の色
『モリノフ君、
葡萄が色着いて来たぢゃあないか。』
唐突さ加減と獣ぢみた野太い声で、私のことを
モリノフ君などと呼ぶのは
彼以外にはなく、少し驚きはするが
「ああ。」と直ぐに状況を引き受けてしまうのが常である。
それが梶井基次郎であることは判っていたから
振り返り見る事もせずにその声に応える。
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「ええ、もう七月も終わりますからねえ
お盆には何時も
祭壇へ色着いたのをお供えしますから。
この度はまた、お久し振りですが、今までどちらへ。」
『ふふん、君が思い出さんから冥府を漂っていたのだ
何時も謂うが俺は精神を乗せる舟を持たんから、一時的に
君の舟に相乗りさせて貰って居るんぢゃないか。
葡萄が色着き始めるころには冥府の扉が緩くなるから
そいつに惹かれて、ひょいと立ち寄った迄だ。』
何時もの事ながら基次郎は相手の都合も考えず
現れるようにも見えるが、彼曰く「私が思い出しさえすれば」
確かに現れるのである。
『忘れちゃあ居ないだろうな、もうすぐ
従妹の礼子嬢
何十回目かのバースデイと謂う奴だ。』
「覚えては居ますが・・・。」
『何だ、その「居ますが・・・。」って謂うのは。』
「もう七月も終わってしまいますねえ・・・」
『良いんだ、覚えてさえ居れば。人は認識の中にのみ存在する
例え実体が在ったとしても誰からも認識されなければ
存在しないのと同じ事で、この満ち満ちたる空気でさえも
認識なくば「無い」のと同じ事なんだ、
ぢゃあ安心したから還るぜ。』
今回は基次郎とは久し振りの再開であったのに
背中越しの会話だけで姿も見ないままであった。
「基次郎さん、どちらへ。」と振り返った時には姿もなく
『冥府だよ。』の声だけが耳に残る。
パラノイアエッセイの読み方
パラノイアparanoia
体系立った妄想を抱く精神病。妄想の主体は
血統・発明・宗教・訴え・恋愛・嫉妬・心気・迫害などで
四十歳以上の男性に多いとされる。分裂病のような
人格の崩れはない。偏執病。妄想症。
いったい何の事だか分からないが、当てはまっている
ところが無いこともない・・・・・・。
そんな訳でポコンと現れた、言葉や映像の断片から
妄想が膨らみ、四次元浮游の基次郎などが現実世界に
絡んで来ると言う、不可思議なエッセイであるから
元来パラノイアエッセイの読み方なって謂うのも無く
理解などという範疇を超えての御愛毒を。
:::::::::PranoiaEssai:::::::::
檸檬と悪魔基次郎の予感十四話へ続く
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絹子・1
閑脳私小説
五章・絹の約束

『先生のお仕事ぶりや蘊蓄には、いつもながら引き込まれてしまいます。
ああ、そのお仕事ぶりへの情熱の何十分の一でも、あたしに
向けてくだされば、この世の幸せでございますのに
どうぞ絹とのお約束、お忘れになりませぬように・・・。』

そんな
婉曲なる便りを貰って何度も読み返して見るが
肝心な約束の内容が書かれていない。
かと言って今更「何の約束でしたか・・・」など尋ねるのも馬鹿である。
確かに赤煉瓦館の隅で、約束を交わしたことは覚えているのだが
何の約束だったのか、とんと忘れてしまっているのである。
細面で鼻筋の通った絹子は時計技師の娘であるが
その稼業に似合わずノンビリとしていて、語り口なども
京ことばを聞くように不思議な抑揚と間を持っていて
時計仕掛けに例えるなら一日10分ばかり遅れる
ゼンマイ時計のような緩いゆるい性分のようである。
たぶん約束をした日にも、その言葉の韻に気を取られて
肝の部分を聞き逃していたようで、記憶に沁み込んでいない
だから幾度思いを巡らしても、見当たらないのである。
『何だかお腹が寂しがっているから美味いものでもご一緒ましょう。』
と言うのでもなし『喰うに困っているから金を貸してくれ』との
無心でもなかったから、多分これのことであろう。
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婉曲なる仕事の催促メールに閑脳妄想しながら
慌ててブローチ木枠を製作している杜の舟であった・・・

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プロローグ閑悩私小説絹をお傍に
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南酷の雨宿・不覚にも
南酷の雨宿
第四章・不覚にも

最終日は土砂降りの雨で流石に客足も伸び悩むが
その分作家諸氏と親睦をはかれるのは有難たい。
初日の懇親会の折り同席した長崎三川内焼の浅井氏夫妻と
亀岡氏とで作家談義に花が咲き、最終日の今日
打ち上げがてら夕食を共にすることになった。
二方とも本場で揉まれているだけにレベルが高いから
くすぐる話しが面白く、つい時間の経つのも忘れてしまう。
しかし困ったことに話しに夢中になっていたから
何を食べたか忘れてしまった。
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まだ少し小腹がすいていたので宿への帰りしなに
普段は行くことのないマクドナルドへ寄って裏メニューとやらの
ハンバーガーを一つ買い込んでビールのつまみにする。
明日は帰るだけだから気分が楽でいい。
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ちびりちびりとビールを飲みながら昨日の本の続きに目をやったが
不覚にも3ページも読まない間に眠りこけてしまった。

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第一章・夢十夜南酷の雨宿ただいま~。
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南酷の雨宿・帯に魅かれて
南酷の雨宿
第三章・帯に魅かれて

展示会二日目、この会場は普段は武道館として使われていて
エアコンなどの設備があるわけではないから
臨時で冷風扇などが数機設置されているのだけれど
出入口も開け放されていて外気温が上がり始めると
人と外気の熱気で蒸し風呂のようになる。
無論それを承知で参加しているのだから自前で扇風機を
持ち込んで、客には当てずに自分ばかりが涼んでいるのだが
流石にピークになると、こいつも温風機と化してしまう。
「こんな日は美味い物を喰って生ビールだ。」と
頭の中ではこの言葉ばかりが呪文のように繰り返されて
花こみち女史の反論を押し切り、またもや宿の隣の焼き肉店へ
いやいや、然程の肉食系ではないのだが生ビールを飲んで
ふらふら歩いて帰れるところが他にないからここにする。

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手持無沙汰の長い夜は、なかなか読み進まずにいた
友人の祖父である「安高団兵衛の記録簿」を読む。
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まだ多くは読み進んでいないのだが、実はこの本の
帯に魅かれて、もう大方読んでしまった気分になっていて
時化た作家に「自分に与えられた時間だけが自分の命だ、
ごちゃごちゃ迷って悩んでいたり、人に振り回されていないで
一歩踏み出してみろ。」などと偉そうに語っている。
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そうそう、こんな下らぬことなど書いてないで
少しでもこの本を読み進まなければ・・・


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第一章・夢十夜南酷の雨宿第四章・ただいま~。
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