杜の舟型録帳/木工芸・童話・小説

バーバヤーガの家
バーバヤーガの家は、随分若い頃に
雪深いミースの杜で出会ったおかしなな建物である。
このミースの杜については、古い話しになるが
まだ携帯電話など
普及していない頃、モリノフ・ウラナガーンという
見知らぬ人物からの一本のエアメールから
不思議な縁に導かれての出来事であったのだが
それはさて置き、バーバヤーガの家の話しを進めよう。

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東スラブの針葉樹林の鬱蒼と生い茂るスィニエーク空港から
もっとずっと雪深い森の中ミース・リエース

そのモリノフ・ウラガーン氏を訪ねた折に
彼から、こっそり教えてもらった廃屋である。

バーバヤーガ〔BabaYaga〕
バーバヤーガは雪深いミースの杜に棲む妖精のことで
住まいが雪に埋もれないように、鶏の足のような土台の上に
住家が建てられているのであるが、昨今は近代的に建て替わり
こんな古い様式の建物は見られなくなった
と嘆きながらも
ウラガーン氏は近年のバーバヤーガの家のある
森へも案内してくれたものである。
次回は古い記憶をもとに、それらの建物も再現して
杜の舟外伝」スピンオフ作品として、物語を追いながら
「g20」シリーズに加えることにしよう。
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バーバヤーガの家◀Babayagaバーバヤーガ・2
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ミース(北杜の神話)から・スィニエーク空港

Ⅰスィニエーク空港 ミース(北杜の神話)       
   これは一枚の古い写真から紡ぎだされる、パラノイア・ノンフィクション作品で
      本業の木工の傍らで校正を加えながら、書き綴ってゆく私小説
          杜の舟外伝の一つのものがたりです。

        
         スィニエーク空港 


 思うように暖房も効かない軍用機を思わせる旧ソ連製の機体が
東スラブの冷たい灰色の空を震えながら幾時間も飛び続けている。
寒さ凌ぎに呷ったウオッカは、
強烈なまでに胃袋だけをひりりと焼いた。

 やっと高度を下げ始めても、変わらず私は白い息を吐きながら
ずっと寒さを堪えている。 機体が雪を噛むように軋みながら、ようやく
白いスィ二エーク空港の滑走路に着陸した。
 
 しかし小さな窓越しに見る外界は、とても着陸したとは思えない風景であった。
凍てる風が滑走路を白く泡立たせ、古い機体は波間の小舟のように
絶え間なくぎしぎしと煽られ、いまだ大地に足の付かぬ思いである。
 
 機内のアナウンスもなく扉が突然開けられ、どっと強い寒気が吹き込む。
白雲母のようにさらさらに凍った雪片に足を取られながらも
私はぶ厚い手袋で露出した頭を覆うようにして、粗末なターミナルへ駆け込んだ。
同乗だった20人ばかりの客は慌てるでもなく帽子を目深に被り
襟を高く立てながらゆっくりとした足取りで後から歩いて来る。

 それぞれに雪をはたきコートを脱ぐと、ピートの爆ぜる
ごつい鋳鉄ストーブの周りで待っていた迎えの者たちと
ターミナルを後にしていった。
 
 一人残された私の傍へ、長身で灰色の瞳をした男が歩み寄りながら
「御待ちしていました。ウチノユタカさんですね。」と声を掛けてきた。
相手の指定通りに手紙で幾度かのやり取りをしただけなのに
どうして私がそうだと分かるのか疑問に感じて尋ねると笑いながら
「簡単です、最後に残った人に声をかければ良いのですから。」と答えた。
「それに現地の者なら、外に出る時帽子も被らず、おまけに
凍路を駆けて来るものなどいませんからね。」 
 
 成程そうだと関心しながら握手の手を差し伸べると、
いきなり両の腕を掴むようにして、私の両頬に頬を重ねてきたので
思わず顔を引きながらたじろぎ慌てた。
「ああ失礼。日本の方には好まれない挨拶でしたね。」
「いや・・・・・・。ただ突然だから面喰ってしまって。」
彼も頭を掻きながら「初めまして、私がモリノフ・ウラガーンです。」と
言い、改めて握手を求めてきた。
 先日貰った手紙の内容から察するに、先祖に甚衛門という日本人が
いたからか何とも流暢な日本語である。

 私は内ポケットから一枚の古ぼけた写真を取り出した。

           モリノフ

「この写真です、モリノフ・ミネストレーリ。どことなくあなたに似ている。」
何故か初対面の彼に、一枚の写真が同族の匂いを感じさせた。
モリノフ・ウラガーンと名乗った彼も同様に感じたらしく
「ユタカこそ、瞳の色以外ミネストレーリそのままです。」と言って
改めて固く握手を求めてきた。

                                
            北杜の神話杜の舟外伝Ⅱ・神話の杜


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杜の舟外伝

Ⅱ神話の杜         神話の杜 
 
 
ウラガーンの車で2時間ばかり雪原を走り続けてやっと
タヴリエートの街に着いた。
 途中でシートベルトをするように言われたが、ここではベルト着用の
規制もないことだし、古い車ではあったが助手席のシートも広く、まるで
応接室のソファーのようである。
さんざん乗り継ぎの飛行機で縛られてきたから開放感を堪能することにした。

 幹線道路は道幅も広くどこまでも一直線であったし、これまで丸太を運ぶ
トレーラー以外に何台の車に出合っただろう、彼の気真面目さが妙に笑えた。
 
 空港からここまで、街並みらしいのに出会ったのもここが最初である。
このあたりは雪も消えて車窓から入る日差しも温かく感じられる。
この街は概ね林業で喰っているらしく、幾つかの巨大な貯木場と製材所が
立ち並んで、重機の唸る音と木の匂いが立ち込めている。
 
 彼は私を待たせて、古い万屋のようなマーケットに買い出しに入り
両手一杯の提げ袋とウオッカらしい酒びんを抱えてきた。
 車に乗り込むと平気な顔で、これから更に1時間程掛かるだろうという。 
 
さすがにユウラシアに住む者たちはスケールが違うと感じたが後方に
街並みが消え、ふうっと暗い森に入り込むと心なしか不安になってきた。

 それを察したようにウラガーンが話し始めた。「
タヴリエートで伐採
されている樅の木は樹齢千年、もしくは千五百年と言われています。
これから奥はミース・リエース、
詰まり神話の森と呼ばれる自然保護林です。
少なくとも今世紀中、いえ、これから千年先も伐採されることはありません。
そのために私の父も保護運動に参加していましたから、ここは我が家の
庭のようなものです。」
 
 私は気を取り直して話に耳を傾けた。「神話の森とはいい名前だ、でも
私たちは神の棲まえるモリを木偏に土と書いて杜と当てる。・・・・・・つまり」
そこまで言いながら日本語のニュアンスを伝えられないもどかしさを感じた。
「そうです、私がこの度ユタカをお呼びしたのは、それらの日本語の
ニュアンスが知りたかったのも大きいのです。」
 
 未舗装の道路の両脇を、直径が4~5メートルもありそうな樅の巨樹や
シダーが鬱蒼と茂り、延々と何十キロも続いている。
樹高も優に百メートルを超えるものがあるというその光景は、さながら
旧世紀の森の写真家、ダリウス・キンゼイの写真集を見るようだった。
 
 北の杜は日暮れも早く、天まで聳える木々から星の影も垣間見ることが
できない。届かないヘッドライトの先は闇に呑まれ、振り返ればもう
街の灯も見えなくなってしまった。

 「掴まって。」突然のウラガーンの大声と急ブレーキが同時にあって私は
フロントガラスに嫌というほど顔面を打ち付けてしまった。
 ライトに照らしだされた目の前をヘラジカの群れが横切って行くのを
打ち付けた顔の痛さも忘れ、ただぽかんと見ていた。
肩の高さでさえ、このワゴン車を優に超える、例えがうまくないがぬーっと
こちらに向けた顔だけでもドンゴロスのじゃがいも袋ぐらいはあったろう。
さすがに神話の杜と呼ばれるだけはある。
 
 「ユタカ大丈夫ですか。」ルームライトを付けながら顔をのぞき込み
ウラガーンは笑いながら言った。「私なら鼻の骨を折るところだがユタカは
頬骨の擦り傷で済んだようですね。」けっして鼻が低いほうではないと
いうより、日本人にしてはすこぶる高いほうだと思っていたが確かに
彼らと見比べれば見劣りがする。
二人とも大笑いしながら再び車を走らせた。
 
 これのせいでユタカ、ユタカと片仮名で呼び捨てされているような
違和感もほぐれ、「ユタカ、シートベルトをしっかり締めて。」と
言われても素直になれた。
 あれから幾度もヘラジカや他の小動物に出くわしたが、
案外慣れてしまって御伽の国でも紛れ込んだ気分で楽しめた。

               ● 
  Ⅰ・スィニエーク空港杜の舟外伝Ⅲ・ビートの炎


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杜の舟外伝
             Ⅲ ピートの炎
 
 小一時間は走っただろうか、本道から右に大きくそれて、いよいよ暗い
道に入り込んだ。5~6キロ程進むと前方に四角い灯りが幾層かになって
灯っているのが見えた。ウラガーンは「あれが我が家です。」と指差すが
暗い闇にきっかり、刃物で切り抜かれた明かり取りのようにも見える。
そんな妄想もここでは心地よく、車が止まるまで馬鹿な妄想に浸っていた。

 我に返ると、これが途轍もなくでかいログハウスだと知れた。
今まで潜り抜けてきた森を、そのまま横積みしたような途方もなく
太いログで積み上げられた三階建てで、周りは広く切り開かれていた。
呆けたようにログハウスを見上げていると、その円く開かれた夜空に
銀の砂を撒いたように無数の星が煌めいて見えた。

 分厚い木扉が開き「パーパ。」と声がして二人の子どもたちの
シルエットがウラガーンに飛びついて来た。 
                      
「ユタカ、お待ちしていました。」ワゴンの荷物を受け取りながら流暢な
日本語でウラガーンの奥さんが笑顔で迎えた。
 学校の教室ほどの部屋の真ん中に大きなストーブが陣取って
柔らかくも圧倒的な暖気を輻射している。

 ウラガーンの周りを子犬のように纏わりつく子どもたちの頭を撫でながら
「長男のキェードルと娘のイエーリ、10歳と9歳です。」と紹介すると
二人して背伸びをしながら柔らかいほっぺでウラガーンのよりずっといい
頬擦りと「ユタカ、イラッシャイ」と片言ながら上手な挨拶を貰った。

 「遠いところよく着て戴きましたね、家内のイーヴァです。」
軽く握手を交わすつもりが、またもや彼女からも頬擦りの挨拶をされ
さすがにこれには照れくさい思いがして言葉も出ない。
「イーヴァ、これは日本では習慣に無いらしい。私も嫌われてしまったよ。」
「いやあ、うれしい習慣だが、どうも照れくさくて。でも本当に御誘い戴き
ありがとうございます。暫らくお世話になると思いますが、どうぞよろしく
お願い致します。」と私は深々と頭を下げた。
 
ウラガーンとイーヴァは顔を見合せ笑いながら言った。
「日本人の挨拶の丁寧さや、そうして深く頭を下げるのは、誇張された映画の
世界だけかと思っていましたが、こうして実際に見るのは初めてです。」

 この地方はどこも燃料にピートを使うらしく、ひしゃげたような
ブリキのバケツにぼそぼその泥炭が盛られている。私の知る限りでは
石炭のほうが遥かに火力が強いように思えるが、このぢわぢわとした
燃え加減が豊穣な温もりを与えてくれるのだろう。
 
 ウラガーンの家族に囲まれ温かい食事をしながら、ついこの厳ついストーブに
似合わぬ、柔らかな炎に目が向いてしまった。
 
 子どもたちは初めて見る日本人が珍しいのと、頭を下げる挨拶が
気に入ったらしく「ドウモ」とか「ドーゾヨロシク」などと言っては
頭を下げあって笑い転げていた。  

                 
   Ⅰ・スィノエーク空港杜の舟外伝Ⅳ・グリンノーツ 
      
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杜の舟外伝

            Ⅳ グリンノーツ

 翌朝、早い朝食の後にイーヴァは子供たちを連れて学校へ出かけて行った。
聞けばイーヴァはその学校の教師なのだそうである。
 
 昨夜は歓迎パーティーよろしく取り留めのないおしゃべりで終始したが
子どもたちを見送ると、どちらからともなく、あの写真の人物
モリノフ・ミネストレーリとの因縁の話題になった。

 昨年のことである。若くして亡くなった私の父親のアルバムから見知らぬ
一枚の写真が出てきた。
敗戦後に抑留された時のロシア人か何かの写真だろう
と思ったが、どこか父の顔立ちに似ているようで気になった。
 
 スラブ文字らしいものが書き込んであり、あれこれの手がかりの末
モリノフ・ミネストレーリという人の名前だということが解かった。
ところが、それが解ったことで、あらためて因縁の深みに嵌ってしまった。
「モリノフネ」これが私の生業、木工房の屋号の呼び名である。
偶然にしては出来過ぎた話だ。 
 
 この一枚の写真と因縁話しをブログに書き込み、忘れかけたころ
見知らぬ人物からのエアメールが届いた。
 ウラガーンの手紙の内容の概ねはこうである。
突然の手紙で不躾ではあるがミネストレーリに深い関心を持つものであるが
複雑な事情により速やかにモリノフ・ミネストレーリの記事を
ブログから削除してほしい。今後の連絡は封書のみでお願いしたい。
 私は言われるままにその項目を削除したが、相手の少なからぬ過敏な反応に
軽い違和感を感じていた。

 思えばこれがウラガーンと出会うきっかけとなった訳である。
ウラガーンがネット検索中に偶然に見つけたmorinofuneの文字に
興味を抱いて開いたところに、ライフワークとして研究中の物理化学者
モリノフ・ミネストレーリの名前と写真が目に飛び込んで来たという。
 ミネストレーリは物理化学者のほかに、執筆家、詩人としての側面も持つ
人物で、研究の資金はそこから捻出されていたようである。

 「彼のことについて私の知る限りのことをお話しましょう。彼はある時
この森で、幻の生物と呼ばれるグリンノーツに出合い、しかも数匹の
個体を確保し、その生態研究に没頭していったのです。ところがこの
研究内容が軍の触手を動かさせることになったのです。
」 
                  
                 
   Ⅰ・スィニエーク空港杜の舟外伝▸・・・・・・ゆっくり、ゆっくりと続く 
 
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                  2010年12月26日
 
随分長く放っています。
表現の難しさに手が止まり、本業の忙しさに其のままのなっています。
もし、この杜の舟外伝にご興味のある方は気長にお付合いください。

プロフィール

プロフィール写真
0000morinof00000000000 福岡県筑豊の小高い丘の上に棲息工房「杜の舟」を生業としながら小説・児童文学などを執筆

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